優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 郁斗が出て行ってから暫く、詩歌はキャストからヘルプで呼ばれるようになった。

 それというのも、郁斗との接客を目の当たりにして、あんなに冷たい郁斗を相手にもめげず、一生懸命接客をしていた詩歌の頑張りが評価されたからだ。

 そして、それぞれの席にヘルプとして着き、連れの客から気に入られた詩歌は大和の時同様次は指名してくれるという約束を数件取りつける事が出来たようで、彼女のキャバクラデビューはなかなかの好成績で終わる事が出来たのだった。


「詩歌ちゃん、お待たせ。それじゃあ行こうか」
「太陽さん、お疲れ様です。よろしくお願いします」

 仕事を終えた詩歌は、郁斗の言いつけ通り太陽に送って貰う為、彼の仕事が終わるのを事務所内で待っていた。

 まだボーイや清掃スタッフが何人か働いている中、詩歌と太陽は店を出て行き、数分歩いた先にある店が借りた月極駐車場に停めてある彼の愛車の青いスポーツカーに乗り込んだ。

「詩歌ちゃん、なかなかの好成績スタートで幸先良いね」
「そ、そうですか? 初めは不安だらけでしたけど、良いお客様ばかりで良かったです」
「いやいや、それは全て詩歌ちゃんの実力だと思うよ? まあ良い客に恵まれたのも一理あるとは思うけど、運も実力のうちって言うからね」
「そんな……。でも、これからも良い接客が出来るよう頑張ります」
「期待してるよ。それはそうと、まっすぐマンションに向かっても大丈夫? どこか寄りたいところとかある?」
「あの、この辺りに食材や調理器具が売っているようなお店ってありますか?」
「うーん、店はあるけど時間が時間だからね……」
「そ、そうですよね……」

 現在の時刻は午前三時少し過ぎ。大抵の店は閉まっていて、空いているのは二十四時間営業のコンビニや、開店の遅い飲み屋などの店だけ。
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