優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「お、お帰りなさい……! すみません、眠ってしまって!」
「いや、寧ろ寝てて良いって言ったでしょ? まさか起きて待ってるなんて思ってもいなかったよ」
「すみません。本当なら寝ていた方が良かったのかもとは思ったんですけど……その、戻りが朝になるならご飯がある方がいいかと思ったので朝食を準備したんです。今って……お腹、空いてますか?」
「空いてるよ。っていうかわざわざ作ってくれたんだね。嬉しいなぁ」
「…………」

 嬉しそうに笑う郁斗を前にした詩歌はふと思う。やっぱり今の郁斗の方が話しやすくて安心出来ると。

「どうかした?」
「あ、いえ、何でもないです。それでは早速温めなおしますね」
「あ、それじゃあ俺、先にシャワー浴びて来るよ」
「分かりました。出て来たらすぐに食べられるよう準備しておきますね」
「ありがとう」

 シャワーを浴びに廊下へ出て行った郁斗の姿を見送りながら詩歌はお味噌汁の鍋を温め始める。

(……でも、昨夜の郁斗さんの方が、実は本来の郁斗さんだったりするのかな?)

 そんな疑問を抱きつつも、今の詩歌にそれを知る術はない。

(仮にそうだとしても、郁斗さんは郁斗さんだもん。問題は無いよね。優しいのは、変わりないんだから)

 今の彼の方が安心は出来るし話しやすいけれど、どちらの郁斗も大切な存在で助けられていると改めて感謝をしながら彼が出てくるのを待っていた。

 そして、向かい合わせに座った二人は一緒に朝食を食べながら他愛のない会話を交わし、束の間のひと時を過ごすのだった。
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