優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「え? どうしたんですか、いきなりそんな事……」
「……だって、そうだろ? ソイツはこの界隈じゃ人気の男で、白雪はソイツに気に入られてる……」
「そ、そんな事は……」
「それじゃあ、今日この後、アフターに誘いたい。白雪ともっと一緒に居たいんだ。いいだろ?」
「そ、それは……」

 詩歌がアフターに誘われるのは初めてではない。先日、別の常連客から食事に誘われて郁斗の監視下の元、二時間程過ごした事がある。だから先程の黛組の話が無ければ素直に喜び、誘いに乗っていたと思う。

 しかし、今日は郁斗も樹奈との約束を断り早く帰るというのだから当然、詩歌自身も勤務を終えたら早く帰らなくてはならない。

 ただ、今のこの状況は非常にまずい。大和は何やら誤解をしていると詩歌は感じていて、そんな中、明日から暫く店を休むという事も言いづらい状況に置かれていた。

「何だよ、やっぱりその郁斗って奴に誘われてるのかよ?」
「そ、そういう訳では……」
「……都合、悪いのか?」
「ごめんなさい」
「じゃあ、明日また来る。明日はアフターに誘いたい。いいか?」
「あの……本当に申し訳ないんですけど、私、明日からお店の方を、お休みしなければならないんです」
「は? 休む? いつまで?」
「それが、ちょっと今の段階では分からなくて……」

 店を休む理由として先程郁斗たちと相談をした結果、『実家の母が入院をして暫く身の回りの世話をする事になった』というシナリオでいこうと決まり、詩歌は大和にそのように説明をした。

 けれど大和は樹奈から色々と吹き込まれていたようで詩歌のその話を素直に信じる事が出来ないでいた。

「…………やっぱり、さっき樹奈が言ってた事は本当なんだな。もういい、帰るよ」
「え? あ、あの……大和さん? 樹奈さんが言っていた事って……?」
「……何でもねぇよ。気にしないでくれ」
「でも……」
「何かありましたか?」

 何やら不穏な空気を察知したボーイが詩歌たちの席へ向かい話を聞こうとすると、

「もう帰るから会計頼むよ」
「大和さん……」

 これ以上詩歌の話を聞く気が無い大和はボーイに帰る事を告げると会計を済ませ、詩歌の見送りを拒否した彼は振り返る事すらなく帰って行ってしまった。
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