優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「明日から、詩歌ちゃんは何があっても絶対一人で出歩かない事。誰か訪ねて来ても詩歌ちゃんは応対しなくていい」
「……はい」
「何処へ行くにも、俺たちの誰かと行動を共にする事。買い物に出掛けても、絶対傍を離れない事。これは必ず守ってね」
「はい、わかりました」

 詩歌を捜しているのは組織の人間なので、用心するに越した事はない。これまでは一人で留守番をする場面も多々あったけれど、住んでいるマンションをいつ突き止められるか分からない事もあり、今後郁斗が留守の間は必ず美澄か小竹が付いている事になった。

「それと、この話を詩歌ちゃんに聞かせるべきかは迷ったんだけど、知る義務があると思うから話すね。詩歌ちゃんの義父(ちちおや)は売春斡旋に深く関わってる。四条とも、その繋がりで知り合ったんだ」
義父(ちち)が、そんな事を……?」

 郁斗の話を聞いた詩歌は衝撃を受ける。利益の為に引き取られた身ではあるものの、ここまで育ててくれた義父が犯罪に手を染めていた事はショックだったようだ。

「マジですか、それ」
「それじゃあ、苑流や黛組もそれに関わってるって事ですか?」
「ああ。だから花房は詩歌ちゃんの捜索願いを出せなかった。色々探りを入れられる事を恐れたんだろうね」
「最低な奴らだな」
「とにかく、奴らは危険なんだ。女子供だからって容赦するような人間じゃない。それに……花房や四条は詩歌ちゃんを連れ戻したいだけなんだろうけど、黛組や苑流の考えは少し違うんだ」
「それって、どういう……」
「…………怖がらせたくなかったからあまり言いたくは無いんだけど、組織の連中は詩歌ちゃんを見つけたら、花房たちに引き渡すつもりは無い」
「え?」
「黛組の組長――(まゆずみ) 弥彦(やひこ)は、斡旋した女から好みの女を引き抜いては自身の屋敷に囲ってるんだ。まるでコレクションでもするかのように」
「……そんな……」
「詩歌ちゃんはそんな黛の好みの女に条件が当てはまるから、間違いなく黛の元へ送られる」

 恭輔から花房たちが裏でしている悪事を知った郁斗は情報屋から更に詳しい情報を聞き出し、そもそも売春斡旋を始めたのも、全ては黛 弥彦が好みの女を集めたいが為に行われているという事実を知る。
< 85 / 192 >

この作品をシェア

pagetop