優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「……郁斗さん……ありがとうございます」

 抱き締められた事によって安心したのか、詩歌の身体の震えは徐々に収まっていく。

 全ての不安が無くなった訳ではないけれど、郁斗が大丈夫と言ってくれた事や、必ず守ると宣言してくれたおかげで詩歌の恐怖は少しずつ薄れていったのだ。

 落ち着きを取り戻した詩歌はある事を思い付いたらしく、ひと呼吸置いた後、話を始めた。

「……あの、組織の人たちには、私の情報が出回っているんですよね?」
「そうだね。写真は勿論、詳細なプロフィールまでね」
「……あの、気休め程度にしかならないかもしれないですけど……髪型を変えるというのはどうでしょうか?」
「え?」
「髪を短くして色を染めれば、少しは別人に見えたりしませんか?」

 詩歌の突然の提案に若干驚きつつも郁斗は何か思う事があったようで考え込む事数分、

「……そうだね、何もしないよりは良いかもしれない。けど、詩歌ちゃんはそれでいいの? 髪、伸ばしてたんじゃないの?」

 詩歌の提案に賛成しつつも、彼女の長い黒髪を短く切ってしまうなんて少し勿体無い気がした郁斗は今一度本人の意思を確認する。

「いえ、これは私の意思というより、義父(ちち)に伸ばすよう言われていたんです。私自身、髪の長さにはそこまで拘りがないので切ってしまっても問題ありません」

 伸ばしていたのは詩歌本人の意思では無かった事が分かると、

「そっか、それならいっその事、イメージチェンジしちゃおうね」

 そう言いながらスマホを取り出すと、誰かに電話をかけ始めた。
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