優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「あの、このビルに志木さんって方は居るんですか? 外から見た限りどの階も明かりは付いていなかったように見えましたけど……」
「ああ、志木が居るのは裏側のフロアなんだ。このビルは一階以外の各階北側と南側にフロアがあって、俺たちが入って来たのは南側で、志木が居住スペースとして借りてるのが北側のフロアなんだよ」
「そうなんですね」

 郁斗から説明を受けた詩歌は納得して、五階で止まっていたエレベーターが一階まで降りて来たのでそれに乗り込んだ。

 五階に着くと廊下には明かりが灯っていたので詩歌は安堵し、そのまま郁斗と共に【SHIKI】と書かれたプレートが貼ってあるドアの前にやって来ると、郁斗が呼び鈴を鳴らした。

 すると数秒で鍵は開けられドアが開き、

「おー、郁斗、久しぶりだなぁ」

 アッシュブラウンでパーマがかかっているのか寝癖なのかイマイチ分からないボサボサ頭で黒縁の丸眼鏡を掛け、ヨレヨレで黒地のロングTシャツをにスウェット姿の男が煙草を片手に郁斗と詩歌を出迎えた。

「久しぶり。相変わらずだね、志木は」
「まーな。んで、そっちの子が例の?」
「そう、詩歌ちゃんって言うんだ」

 志木がチラリと詩歌に視線を移しながら問い掛けると、郁斗は頷きながら詩歌を紹介する。

「は、初めまして、花房 詩歌です!」
「ご丁寧にどーも。俺は志木 侑哉(ゆうや)。よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ま、立ち話もなんだから入れよ」
「ああ、それじゃあお言葉に甘えて」
「お邪魔します……」

 互いに挨拶を終え、中へ入るよう促された郁斗と詩歌は一言断りを入れて室内へ入っていった。
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