優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「どうだ? なかなかのモンだろ?」

 約四時間後、全ての工程を終えた詩歌は新たな髪型で郁斗に姿を見せた。

「へぇ、そういうのも、なかなか似合ってるね」
「そ、そうでしょうか?」

 志木によって詩歌は黒髪ロングヘアからベージュカラーのショートボブヘアになった。

 襟足のパーマがふんわりとした印象を与え、顔全体が華やかに見える。

 大人しく内気なお嬢様から、明るく社交的なお嬢様へと言った感じの見た目に変わり、一見同一人物には見えなさそうだ。

「こんなに短くしたのは初めてなので、何だか不思議な気分です」
「詩歌ちゃん、短いのも似合うよ。やっぱり志木に頼んで正解だったよ。ありがと」
「どういたしまして。そんじゃ料金の方は後で振り込んどいてくれよ」
「ああ、分かってる。それじゃあ俺らはこれで。詩歌ちゃん、帰るよ」
「あ、はい。志木さん、ありがとうございました」
「また来いよ。アンタなら、いつでも歓迎するぜ」

 なんて何やら少しばかり意味深ともとれる言葉を口にした志木に、郁斗はまるで牽制ともとれるような鋭い視線を向けながら部屋を出る。

「はい、それでは失礼します」

 しかし、当の詩歌本人は二人のやり取りにまるで気づく事もなく、志木に歓迎された事を純粋に喜び笑顔を向けながら部屋を出て行った。

「へぇ、あの嬢ちゃんにご執心って訳ね」

 部屋を出る間際の郁斗の表情を見た志木は面白そうにそう呟きながら、冷蔵庫にあるビールを取り出すと、煙草を吹かしながら仕事終わりの一杯を楽しんでいた。
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