優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 一方、マンションまで車を走らせ始めた郁斗は、先程までに集めた情報を詩歌にも共有しておこうと話を切り出した。

「詩歌ちゃん、黛組は既に都内を拠点に君を探し始めてるらしい」
「え?」
「買い物程度ならと思ってたけど、やたら無闇に出歩くのは危険だ。不自由な生活になるけど、暫く外出も控えた方がいい。関東にいないと分かれば、その内もっと北へ範囲を広げるだろうからね」
「分かりました」
「大丈夫、そんな顔しないで。髪型も変えてほぼ別人みたいになったんだし、そうそう見つからないよ」
「……そう、ですよね」
「今のところ、俺との関係は店の奴らくらいにしか知られてないから、後はマンションにさえ居れば安心だろうし、こうして俺が一緒のドライブくらいなら外へ出ても問題ないよ。そうだ、昼まではまだ時間もあるし、少し遠回りして帰ろうか」
「え? で、でも、郁斗さんは帰ったらお仕事で出掛けるんですよね? 少しでも早く帰って休んでおいた方がいいと思いますけど」
「さっき少しだけ仮眠も取ったし、仕事も大した内容じゃないから平気だよ。それよりも俺は詩歌ちゃんが元気になってくれないと心配で仕事が手につかないから、キミが気分転換になる事をしたいんだよ。今日は流石に無理だけど、行きたい場所があったら言ってみて? 時間のある日になら可能な限り叶えるからさ」
「……郁斗さん……」

 詩歌は郁斗の言葉に一瞬だけ泣きそうになった。ただでさえ迷惑をかけているはずなのに、郁斗は嫌な顔一つしないどころか常に安全を考え、落ち込んでいれば元気づけようとまでしてくれる。

 そんな彼の優しさが、詩歌にとって凄く嬉しかった。
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