優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 詩歌がマンションに引きこもる生活を始めてから約ひと月、黛組は依然として都内を拠点に詩歌の行方を追っているようなのだが、何の手がかりも掴めていない事に焦りを浮かべているようだという情報を得ていた。

 このままいけば、関東には居ないと判断して東北や北海道まで捜索範囲を広げるのではと思っていた郁斗だったのだけど、詩歌の居場所は彼が予想もしないところから漏れてしまう事になるのだが、現時点でそれに気づく者はいなかった。


 ある日の午後、ひと通りの家事を終えた詩歌は別の部屋で仕事をしている美澄にお茶を淹れようとキッチンに立っていると、仕事用として郁斗から渡されていたスマホの着信音が鳴り響いた。

 画面を見ると、そこには【樹奈】と表示されている。

 基本このスマホの電源は切っているのだけど、今日は常連客の一人が誕生日とあって、メッセージだけでも送ろうとたまたま充電していたところに樹奈から電話が掛かってきたのだ。

「も、もしもし」
「あ、白雪ちゃん? 突然ごめんね。今、大丈夫?」
「は、はい」
「実はね、白雪ちゃんがお店を休んでる間、大和さんが見えたんだけど、あなたに物凄く会いたがって居たわよ」
「大和さんが?」
「ええ、何でも白雪ちゃんが休みに入る前の日に取った自分の態度を悔いていたけど……」
「そう、ですか……」
「白雪ちゃん、まだ戻って来れないの?」
「ええ、すみません」
「そう。お母様の具合、そんなに悪いの?」
「いえ、その……そこまで深刻な程ではないんですけど……」
「ねえ、少しでもいいから会って話せない?」
「え?」
「白雪ちゃんが居ない間、大和さんは樹奈を指名してくれているの。だから、白雪ちゃんも彼に何か話があるなら、樹奈の方から彼に話しておくわよ」
「いえ、そんな事……」
「それに、それを抜きにしても、樹奈はね白雪ちゃんともっと仲良くなりたいのよ。ね? 一日だけ、どこかで時間作れない?」
「……その、今すぐにお返事が出来ないので、後程私の方から連絡します」
「そお? 分かった、それじゃあ待ってるね」

 それだけ言うと、樹奈は電話を切ってしまう。

(樹奈さん……何でわざわざ?)

 何だかイマイチ腑に落ちない感じがしていた詩歌は郁斗が帰って来たら電話の話をしようと思い、美澄にお茶を持って行った。
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