優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
 その夜。

「駄目だよ、それは許可出来ない。樹奈には俺の方から直接伝えておく。それと、その電話は返してもらうよ。詩歌ちゃんはこっちの電話を使ってて」
「はい、分かりました」

 昼間樹奈から電話が掛かってきた事や彼女が会いたいと言っていた事を伝えるも、郁斗はそれに首を縦に振る事は無かった。

 おまけに仕事用のスマホは回収されてしまい、詩歌の手元には別のスマホが手渡され、それには郁斗と美澄と小竹の電話番号しか入っていなかった。


 詩歌から樹奈の話を聞いた郁斗は、樹奈の事を警戒し始めた。

 そして翌日、『PURE PLACE』にやって来た郁斗は出勤していた樹奈を事務所に呼んだ。

「郁斗さん、ようやく樹奈を指名してくれるの?」
「いや、それよりも、昨日詩歌ちゃんに連絡をしたみたいだね?」
「え? 何で郁斗さんが知ってるの?」
「詩歌ちゃんは理由があって、今は俺が色々と面倒をみてるんだ」
「……へ、へぇ。それでわざわざ樹奈から電話があった事を郁斗さんに話したんだ?」
「詩歌ちゃんに何の用があるの? 伝える事があるなら電話で済むだろうし、渡したい物があるなら俺が代わりに引き受けるよ?」
「……べ、別に、そういう訳じゃないよ。ただ、仲良くなりたいなって思ってただけ。それって悪い事?」
「いや、それ自体は悪くなんか無いよ。樹奈が本当に詩歌ちゃんと仲良くなりたいって思ってるなら……ね」
「…………っ」

 郁斗は樹奈が詩歌を目の敵にしている事に気付いていたので、二人きりで会わせるつもりは無かった。

 それを悟られた樹奈はこの場で何も言葉を発する事は無く、不貞腐れた表情で座ったままだった。

 そしてその日の夜、樹奈はこのままでは怒りが治まらないと、ある人に話を持ち掛けようと心に決めていた。
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