優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「あ、もしもし大和さん? 樹奈でーす」

 その夜、日付が変わる少し前に樹奈は大和へ電話を掛けた。

「あのね、実は白雪ちゃんの事なんだけどぉ」

 その内容は勿論詩歌絡みで、何か良からぬ事を考えていた樹奈は詩歌への恋心を抱き、諦めきれていない大和にも協力させようと電話を掛けたのだけど、

「え? もうどうでもいい? 何で? この前は諦められないって言ってたじゃん。だから樹奈にお願いしたいって」

 大和はもう詩歌への気持ちが冷めつつあったようで、樹奈からの話に興味を示してはいなかった。

「そんな事ないよ、大丈夫! 樹奈の言う通りにすれば必ず上手くいくから…………あ、そう。じゃあもういいよ。さよなら」

 結局、何度か説得を掛けたものの大和の気持ちは変わらなかったようで、思い通りの展開に事が運ばない樹奈はますます機嫌を悪くした。



「郁斗さん、ちょっといいですか?」

 店が終わりキャストたちが帰って行く中、太陽は再び店を訪れていた郁斗に話し掛ける。

「どうした?」
「実は、樹奈の事なんですけど」
「樹奈がどうかしたのか?」
「それが、帰り際に突然店を辞めると言ってきたんです」
「辞める? アイツが?」
「はい。ひとまず、保留という形にはしてありますが、本人の意思は固そうです」
「……そうか」

 樹奈が店を辞めるという話には、正直郁斗は驚いていた。

 スカウトしたての頃はイマイチ乗り気じゃなかった彼女も今ではそれなりに楽しんでやっていたからだ。

 そんな彼女が辞めたいと思っているのは恐らく、自分が詩歌を優先しているからだという事は何となく予想出来ていた。

「悪いな、俺の方でも一度話をしてみるよ」
「すみません、お願いします」

 太陽と話を終えて車に戻った郁斗は一度樹奈と話をしようと電話を掛けた。

 すると、

「もしもし~?」

 何やらかなり酔っぱらっている様子の樹奈が電話に出た。
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