優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「樹奈、お前、酔ってるな?」
「そんなことないですよ~? どうしたんですか?」
「……さっき太陽から聞いた。店を辞めたいと言ったみたいだね?」
「あー、その話ですか。そうです。だってぇ、郁斗さんが全然樹奈をみてくれないからぁ」
「約束を破ってる事は悪いと思ってるよ。けど、今はどうしても時間が作れないんだ」
「白雪ちゃんの事が優先なんですもんね~」
「…………樹奈――」
「いいですよ、もう。とにかく、樹奈はもう辞めます。次の仕事も決まりそうだしぃ」
「次の仕事?」
「とにかく、今はお友達と楽しんでるでぇ、もう切りますね」
「あ、おい、樹奈――」

 まだ話があった郁斗だけど、樹奈が一方的に電話を切ってしまい話は途中で終わってしまった。

 この時、樹奈は友達と一緒だと言っていたのだが、その友達というのが、黛組と繋がりのある組織の人間だった。

「おい樹奈、誰だよ、今の電話」
「え~? 樹奈が良いなぁって思ってた人」
「何で過去形なんだよ?」
「だってぇ、その人ってば、一人の女の子に夢中なんだもん」
「へぇ? どんな女なんだよ?」
「花房 詩歌っていう、世間知らずのお嬢様タイプの子。純で清楚系が受けるのかなぁ。樹奈には無理ぃ」
「花房……詩歌?」
「なぁに、(やす)くん、知ってるの?」
「いや、その名前……どっかで聞いた事あんだよな…………あ! 確か……」
「ん? 何?」
「いや、ちょっと知り合いが探してる子の名前がそんなだった気がすんだよ」
「へぇ~?」

 樹奈と一緒に飲んでいるのは中宿(なかやど) 泰典(やすのり)という男で、女ウケしそうな爽やかな顔立ちで一見優しそうに見える彼は、堅気の人間ではない。

「あ、(じん)さんお疲れっす。黛さんが探してるって言ってた女いたじゃないっすか、その子の名前って何て言いましたっけ? え? あー、そうっすか。あの、実は俺、その子の事知ってる人と一緒に居るんすけど…………はい、分かりました、それじゃぁ、また」

 泰典は誰かに電話を掛け、その話終えると、

「なぁ樹奈。その詩歌ちゃんについて詳しく教えて欲しいって人が居るんだけど、これから会ってくれねぇ?」

 酔っぱらっている樹奈にそう話を持ちかけた。
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