優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「ふーん、まあ、いいよ? 樹奈もね、ちょーど泰くんに詩歌ちゃんの事を話したいって思ってたの」
「俺に? そりゃまたどーして?」
「……樹奈、詩歌ちゃんには少し痛い目見て欲しいから……泰くんにお願いしたい事があるんだぁ」
「……相変わらず、怖ぇ女だよな、お前」
「それ、この前も言われたァ。別に怖くないもん。だって、当然でしょ? 突然やって来てずっと好きだった男奪われたら黙っていられないよ」
「ま、とりあえずこれから迅さんに会いに行こうぜ。迅さんなら、樹奈の望みも叶えてくれると思うしさ」
「そうなんだ? うん、わかったぁ」

 酔っぱらって上機嫌なのか、詩歌に復讐する事が出来そうだから上機嫌なのか分からないけれど、樹奈は笑顔を浮かべながら泰典と共に飲み屋を後にすると、『迅』という男に会いに行く為、別の店へと向かって行った。


「迅さん」
「おー、泰」

 先程飲んでいた店から十分程歩いた場所にあるビルの地下へやって来た泰典と樹奈。

 夜風に当たった事で少しだけ酔いが冷めていた樹奈は店に入るなりその異様な光景に思わず足が竦む。

 それと言うのも、彼女たちが足を踏み入れた店には迅を含み、十数人程の男女の姿があるのだけど、何やら皆様子がおかしいのだ。

 それに、色々な匂いが混ざり合い、酔いのせいもあるかもしれないが、樹奈は少しだけ吐き気すら覚えていた。

 そんな異様とも思える店内で酒を飲みながら空いている手ですぐ隣に座る女の身体に触れながら反応を愉しんでいたのが、迅という男だった。
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