ミステリアスな王太子は 花嫁候補の剣士令嬢を甘く攻め落とす【コルティア国物語Vol.1】
その頃、北の地ガルパンでは…。

オーウェンより一足早く辿り着いたハリス、フィル、そしてクリスティーナが、敵陣を少し離れた場所から注意深く見張っていた。

そこに、息を切らせた兵が駆け込んでくる。

「た、大変です!将軍。夜明けと共にコルティアの部隊が攻め込んで来ます!」
「なに?!ここにか?」
「はい!イズールで落ち合うというのはガセネタでした。ここガルパンで陸軍と合流した応援部隊と共に、既にこちらに向かっている模様です」
「なんだと?!ここにはわずかしか兵はいないではないか。皆、イズールに向かわせ奇襲させる計画だったであろう!おのれ、誰がこんな事態を招いた!」
「も、申し訳ありません!」

頭を床にこすりつけて詫びる兵に、将軍が剣を抜く。

「この場で叩き斬ってやるわ!」

その時、また別の兵が滑り込んできた。

「将軍!敵が峠を超えて姿を現しました。直ちに避難を!」
「くそっ!」

剣を納めると、将軍はマントを翻して背を向ける。

今だ、とハリスはフィルとクリスティーナに目配せした。

「動くな!」

素早く将軍の背後に回り込んだクリスティーナが、剣を喉元に突きつけた。

フィルは剣を構えてその場にいる三人の敵を牽制する。

「おのれ、たかだかお前達二人で何が出来る。おい、私に構うな。やれ!」

将軍の言葉に、三人は一斉に剣を抜く。

「動くと将軍の命はないぞ」

クリスティーナがさらに剣を突きつけて脅すも、将軍はニヤリと笑う。

「お前ごとき、私が倒せないとでも?」

そう言うと、クリスティーナの腕を掴んでねじり上げる。

思わず力が緩んだ刹那、将軍は身を翻してクリスティーナの腕から逃れ、剣を抜いた。

それを合図に、三人も一斉にフィルに飛びかかる。

剣と剣のぶつかり合う音が響く中、ハリスはいつでも飛び出せるように、物陰に隠れながら左手で剣を抜いた。

クリスティーナは将軍の攻撃をかわしながら、冷静に反撃の機会をうかがっている。

そしてフィルもまた、三人の相手をしながら、チャンスを狙っていた。

一見相手に押され気味の劣勢に見えるが、クリスティーナもフィルも冷静だ。

闇雲に剣を振りかざしていた三人に、ついにフィルが仕掛けた。

相手の剣を受け止めると、そのまま力を込めて振り払う。
相手の手から剣が飛ばされ、将軍と対峙しているクリスティーナの足元に刺さった。

するとクリスティーナは、一瞬目を落とした後、その剣を左手で抜く。

「ええ?!」

敵に応戦しながらも、フィルは思わず声を上げてクリスティーナを見る。

「どうするつもりだ?!クリス」
「フィル、油断は禁物!」

そう言ってクリスティーナは、将軍を睨みつける。

(あんまり時間をかけると力負けしてしまうわね。そろそろ決めさせて頂くわ)

左手の剣で将軍の振りかぶった剣を止めると、クリスティーナは一気に間合いを詰め、右肘を折って将軍の喉元にかざした。

ピタリと喉に触れる横向きの剣に、将軍はウッと呻いて動きを止める。

その隙に、クリスティーナは左手を大きく下からすくい上げ、将軍の右手から剣を振り飛ばした。

「へえ。やるな、クリス」

キン!と相手の剣を受け止めながら横目で見ていたフィルが口角を上げる。

「じゃあ、俺もそろそろ…」

フィルは両手で剣を構えると、右足を後ろに引いて腰を落とした。

飛びかかってくる相手の剣を受け止めると、そのままくるりと剣を返し、上に弾き飛ばす。

すかさずもう一人が剣を振り下ろすが、高い位置で受け止めてから、懐に飛び込んでみぞ落ちに肘を食らわせた。

ウグッと相手が膝を折って倒れ込む。

「そこまでだ!…って、あれ?」

部隊を率いて飛び込んできたオーウェンは、床に転がった敵の兵と将軍に剣を突きつけているクリスティーナ、そして同じく剣で兵の動きを封じているフィルを見て、キョトンとしていた。
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