ミステリアスな王太子は 花嫁候補の剣士令嬢を甘く攻め落とす【コルティア国物語Vol.1】
先祖代々、国王の近衛連隊長を務めてきたジェラルド家は、その活躍ぶりを称えられ伯爵の爵位を授けられた。
クリスティーナ=アンジェ=ジェラルドは、そんなジェラルド家の嫡女として生まれた。
父のハリスは、男子が生まれればもちろん自分の跡を継がせる気だったが、生まれてきたのはクリスティーナとリリアンの女子二人。
その後は子を授からず、思い詰める母の気を紛らわそうと、クリスティーナは父に剣術や馬術を教わった。
メキメキと腕を上げるクリスティーナに、段々父も本気で対戦するほどになる。
「なかなかやるな、クリスティーナ。今すぐにでも我が近衛隊に招きたいくらいだ」
真剣を交えるキン!という音が響く中、父のハリスはニヤリと口元を緩める。
「油断は禁物ですわよ、お父様。ほら!」
父の剣を正面で受けたクリスティーナは、そのまま剣を横に振り払うのと同時に、ふっと身を屈め、相手の懐深くに潜り込んだ。
喉元に切っ先を向けられて、ハリスはグッと喉を詰まらせる。
「まったくお前は…。すばしっこくて手に負えん。男より背が低い分、対戦相手としての感覚も掴めんしな」
「ふふ。力では敵いませんが、意表を突く動きなら負けませんわ」
血筋のせいか、父に劣らぬ剣の技を繰り出すクリスティーナは、自身もこうして日々鍛錬を積むことが嫌いではなかった。
ここコルティア国は、十年前に隣国からの侵略を受け、国民の暮らしは一変した。
緑豊かで広大な土地に穏やかに暮らしていた平和な国が、ある日いきなり宣戦布告を受けて攻撃されたのだが、対抗する戦力はほとんどなかった。
”平和ボケ”か?と揶揄され、あろうことか敵国は別の国と手を組み、連合国軍としてますます激しい攻撃を仕掛けてきた。
コルティア国の軍隊はほぼ壊滅状態。
そこを救ったのがハリス率いる近衛連隊だった。
普段は王宮で国王の警備に当たっている近衛兵達を引き連れ、戦場の最前線に乗り込み、長きに渡る接戦をなんとかしのいだ。
そしてしばしの休戦の間に、国の軍事力を強固なものにしようと、若い男子は皆軍隊に入隊することとなった。
それまで酪農や農業、林業などが主な国民の営みであったが、今は誰もが武器を作り、質素な生活を送りながら再び始まった争いに耐え忍んでいる。
最前線で戦うことはなくなったはずのハリスも、国境での争いが激しさを増したとの報告を受け、隊を率いて駆けつける。
七日間ほとんど眠らずに戦い、その場を収めて帰って来たが、無傷では済まなかった。
国王への報告を済ませ、夜中に屋敷にたどり着いた時には意識は朦朧。
馬車の音を聞きつけて屋敷を飛び出して来たクリスティーナには、すぐに怪我を察知されてしまった。
だが事を荒立ててはいけない。
自分が深手を負ったと噂になれば自国の軍隊は動揺し、ましてや敵国の耳に入れば隙を突かれる。
クリスティーナもその事情は承知の上らしく、医者は呼ばずに自らが手当してくれた。
とにかく今は身体を休めなければ。
その一心でハリスはベッドに横たわる。
深い眠りについたハリスは、高熱でうなされたことも、クリスティーナがつきっきりで看病していたことも知らずにただ眠り続けていた。
クリスティーナ=アンジェ=ジェラルドは、そんなジェラルド家の嫡女として生まれた。
父のハリスは、男子が生まれればもちろん自分の跡を継がせる気だったが、生まれてきたのはクリスティーナとリリアンの女子二人。
その後は子を授からず、思い詰める母の気を紛らわそうと、クリスティーナは父に剣術や馬術を教わった。
メキメキと腕を上げるクリスティーナに、段々父も本気で対戦するほどになる。
「なかなかやるな、クリスティーナ。今すぐにでも我が近衛隊に招きたいくらいだ」
真剣を交えるキン!という音が響く中、父のハリスはニヤリと口元を緩める。
「油断は禁物ですわよ、お父様。ほら!」
父の剣を正面で受けたクリスティーナは、そのまま剣を横に振り払うのと同時に、ふっと身を屈め、相手の懐深くに潜り込んだ。
喉元に切っ先を向けられて、ハリスはグッと喉を詰まらせる。
「まったくお前は…。すばしっこくて手に負えん。男より背が低い分、対戦相手としての感覚も掴めんしな」
「ふふ。力では敵いませんが、意表を突く動きなら負けませんわ」
血筋のせいか、父に劣らぬ剣の技を繰り出すクリスティーナは、自身もこうして日々鍛錬を積むことが嫌いではなかった。
ここコルティア国は、十年前に隣国からの侵略を受け、国民の暮らしは一変した。
緑豊かで広大な土地に穏やかに暮らしていた平和な国が、ある日いきなり宣戦布告を受けて攻撃されたのだが、対抗する戦力はほとんどなかった。
”平和ボケ”か?と揶揄され、あろうことか敵国は別の国と手を組み、連合国軍としてますます激しい攻撃を仕掛けてきた。
コルティア国の軍隊はほぼ壊滅状態。
そこを救ったのがハリス率いる近衛連隊だった。
普段は王宮で国王の警備に当たっている近衛兵達を引き連れ、戦場の最前線に乗り込み、長きに渡る接戦をなんとかしのいだ。
そしてしばしの休戦の間に、国の軍事力を強固なものにしようと、若い男子は皆軍隊に入隊することとなった。
それまで酪農や農業、林業などが主な国民の営みであったが、今は誰もが武器を作り、質素な生活を送りながら再び始まった争いに耐え忍んでいる。
最前線で戦うことはなくなったはずのハリスも、国境での争いが激しさを増したとの報告を受け、隊を率いて駆けつける。
七日間ほとんど眠らずに戦い、その場を収めて帰って来たが、無傷では済まなかった。
国王への報告を済ませ、夜中に屋敷にたどり着いた時には意識は朦朧。
馬車の音を聞きつけて屋敷を飛び出して来たクリスティーナには、すぐに怪我を察知されてしまった。
だが事を荒立ててはいけない。
自分が深手を負ったと噂になれば自国の軍隊は動揺し、ましてや敵国の耳に入れば隙を突かれる。
クリスティーナもその事情は承知の上らしく、医者は呼ばずに自らが手当してくれた。
とにかく今は身体を休めなければ。
その一心でハリスはベッドに横たわる。
深い眠りについたハリスは、高熱でうなされたことも、クリスティーナがつきっきりで看病していたことも知らずにただ眠り続けていた。