ミステリアスな王太子は 花嫁候補の剣士令嬢を甘く攻め落とす【コルティア国物語Vol.1】
「連合国軍に告ぐ。我がコルティア国は東のゼマス、西のカルディア国と平和条約を締結した。今後いかなる軍事行為も許さず、戦争を仕掛ける国はどこであろうと経済的制裁を下す。この誓約書には既にゼマスとカルディア国の王が署名してある。ここにコルティア国王太子の我が名を添えて引き渡す。祖国に戻り、直ちに国王に進呈せよ」

「……………は?」

崩れ落ちた要塞の前に捕えた兵を集め、声を張って高々と宣言するフィルに、クリスティーナとオーウェンは呆気にとられてポカンとする。

フィルは連隊長であるハリスが広げた誓約書にサラサラとサインをすると、腰に差していた剣を抜き、親指を刃にスッと滑らせた。
赤い血が一筋流れ、クリスティーナが息を呑む中、フィルは血の付いた親指を自署の横に押し付けた。

「我が名、フィリックス=アーサー=デュ=コルティアの名を確かにここに刻んだ。たった今私が流したこの血が、この世界の争いの最後の血であることを切に願う」

最後にゆっくりと敵の兵を見渡すと、フィルは身を翻してクリスティーナとオーウェンの前まで来た。

「さ、帰るぞ」
「は、はいー?」

スタスタと歩き始めたフィルの背中を、クリスティーナもオーウェンもただ呆然と眺めていた。
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