ミステリアスな王太子は 花嫁候補の剣士令嬢を甘く攻め落とす【コルティア国物語Vol.1】
「おやおや、選手の交代ですかな?身代わりになるとは、美しい姉妹愛だな」
「あなた達、何が目的なのよ?」
「威勢のいいお嬢さんだな。本当に伯爵家の令嬢か?さっきの妹は怯えて震えてたぞ」
「リリアンを誘拐するなんて、この私が絶対に許さない!」
「へっ!さすがはぬるま湯育ちのお嬢様。俺達貧乏人の暮らしなんて想像もつかないんだろうな」

三人の男達は、ニヤニヤ笑いながらクリスティーナに近づく。

「毎日ご馳走食ってんだろ?俺達が道端の草を食べてしのいでるっていうのにさ」
「割に合わねえよなあ。お前にも痛い目に遭ってもらわないと」
「さてと。どっちがいい?ムチで打たれるのと、俺達の慰みものになるのと」

クリスティーナはグッと男達を睨みながら短剣を構えた。

「どっちもお断りよ!」
「へっ、それじゃあ両方味わってもらうとしよう」

その言葉を合図に、三人は一斉にクリスティーナに飛びかかる。

その手には太くてゴツいナイフや斧が握られていた。

カン!と短剣で受け止めるも、すぐに振り払われる。

(ああ、もう、やりにくい!ナイフって、どこがポイントなの?)

剣なら狙う場所が分かるが、ナイフや斧とやり合うのは初めてだった。

しかも男達は力任せに振り回してくる。
何度か耐えたが、とうとうクリスティーナの手から短剣が弾き飛ばされた。

「ほらよ、捕まえた」

一番大柄な男がクリスティーナの両手を背中に回してひねり上げる。

クッと顔を歪めてクリスティーナは痛みを堪えた。

「さてと。まずは痛めつけてから、伯爵家に脅迫状でも送ろうかね」
「いくら巻き上げられるかな?クククッ」
「それにしても、なかなかの美人じゃないか。可愛がってやるよ」

顎を掴んで顔を寄せてくる男の手に、クリスティーナは思い切り噛みついた。

「いって!この野郎…。調子に乗りやがって」

男が大きく手を振りかぶった時、馬の足音と共に声が聞こえてきた。

「クリス、受け取れ!」

顔を上げると、馬に乗ってこちらに駆けてくるフィルが剣を投げるのが見えた。

「フィル!」

クリスティーナはフィルの投げた剣を足でカン!と真上に高く蹴り上げると、怯んだ男の手を振り向きざまに解き、キャッチした剣で一気に男のナイフを叩き落とした。

「くそっ、この女!」

素手でクリスティーナに殴りかかろうとした男の前に、ヒラリと馬から飛び降りたフィルが立ちふさがる。

ゴツッと鈍い音がして、フィルが繰り出した拳に男はうめき声を上げて崩れ落ちた。

「フィル!」
「無事か?」
「ええ、大丈夫」
「良かった。でもまだ二人いるぞ、油断は…」
「禁物!でしょ?」
「そういうこと!」

二人は背中合わせになると、剣を構えて残りの男達とそれぞれ対峙する。

同時に飛びかかられ、相手の武器を弾き飛ばすのも同時だった。

フィルが三人を縄で縛り、なぜこんなことをしたのかと口を割らせる。

三人は、戦で焼け野原になった故郷を捨ててこの地に辿り着き、あまりの暮らしの違いに愕然として、何かに怒りをぶつけずにはいられなかったと呟いた。

フィルとクリスティーナは黙って男達の話を聞き、最後に金貨を渡して縄を解いた。

「良かったのか?本当にこれで」

戸惑いつつも逃げていく男達を見ながら、フィルがクリスティーナに尋ねる。

「良くないのかもしれない。でも、私はこうしたかった」
「そうか…」

二人は黙ったまま、しばらくその場に佇んでいた。
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