踏み込んだなら、最後。
「……千石…くん…?」
支えるんじゃなく、抱きしめてきた。
「…ごめんなさい」
どうして謝るの。
たぶん、ぜったい、謝らなきゃいけないのは私。
たとえ夢のなかだとしても、私は千石くんじゃない男の子とキスをしてドキドキして、自分からも求めてしまっていた。
唇に残ったままの、初めての感触。
「こんな弱ってるときに付け込むとか、ほんと最悪だなって思います。でも俺は……汐華さんが欲しい」
なんたる正統派。
言葉で伝えて、私の気持ちを聞いて、その先で彼はキスをしてくれる。
強引なんかにもしないで、それこそ風邪のときは看病だけに愛情を込めてくれる。
それが千石 真澄くんなのだ。
「俺を、汐華さんの1番にしてもらえませんか」
あんな夢、2度と見ないためにも。
自分にとって都合が良すぎるあんな夢、もう見たくもない。
そこで感じた幸せに涙を流すなら、いま目の前にいる男の子を泣かせないために笑うべきだ。
「……はい」
私の返事を聞いて、そっと身体が離される。