踏み込んだなら、最後。




ぜんぜん足りないけど、千石くんとだってふたりだけの思い出がたくさんある。

今は足りなくても、これからそれだけが増えていくんだ。



「ん…」



触れるだけの、ほんとうに可愛いキス。

あれは夢なのだから、これが私のファーストキスになるものだ。


ふわっととろけるような柔らかさに、なぜか溢れた涙。


幸せで幸せでどうしようもない───そんな気持ちだったのなら、こんなにも後ろめたさはなかった。



「はやく元気になりますようにって、おまじないかけておきました」


「…ありがとう」


「………、」



スッと移った視線は私の首もと。

なにかを見つけたのか、一瞬の隙に見せた表情を私は“怖い”と思ってしまった。


でも、変だね。


全身が熱くて、緊張して、苦しくて、ほんのちょっとのことにも不安に思っている慣れない顔をしてるのは私だけだなんて。


夢のなかのシロちゃんでさえ、その顔をしていたというのに───。








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