踏み込んだなら、最後。
身体の一部のようにサングラスを常に取り付けている名前も知らないその女は、僕を見てクスリと弧を描いた。
「あなたって本当、すこしでも目を離すと居なくなるわね」
「それが僕の悪いところだと言うなら、僕だってあなたにありますよ」
「…わりとテキトーなところ、とでも言いたいのかしら」
「ご名答。…ねえ、そろそろ教えてくださいよ。───“ワカツキ”はどこにいるんだ」
女は答えない。
ふっとこぼして、車を発進させる。
この女と出会ったのは偶然だが、近づいたのは僕。
彼女も僕の目的を知っている上で、まるで遊ぶように隣に置いている。
パッと見は若々しく見えるが、実際は30を超えてるだろうと今日にも確信した。
「シロウ、おいで」
游黒街の一角に位置する、とある14階建てのマンション。
ある程度の高さはあるとしても、こんな場所だ。
外からは完全に埋もれているため、見えもしない。
ベッドに腰かけるその女に手招きをされて喜ばない男はきっといないだろう。