踏み込んだなら、最後。
あわれで、ぶざまで、さみしい。
守るための嘘をついてまで、こんな街を選んでしまった僕たちは。
「全然いい。どこが親に似てるかすら分からない僕なんかよりは……ぜんぜんいーよ」
でも、これだけは。
これだけはやらなくちゃいけないんだ僕は。
ワカツキという男に会ったら何を言おう。
とりあえず殴りかかろうか。
小さな頃はずっとずっと写真を握りしめながら隠れて泣いていた女の子が、今は「思っても会えないから思わないようにしてる」なんて言い出した始末。
『泣かないでユキちゃん。ぼくがいつか、ぜったいお父さんに会わせてあげるから』
なあ、ユキちゃん。
お父さんに会えたら、どうしたい?
ひまわり園を出ていく?
そしたら僕はあそこに戻るよ。
“かぞく”をやめたかったのは本当。
だってうんざりだ。
僕がどんな目できみを見て、どんな気持ちをきみに抱いていたかなんて知らないだろ。
『だからぼくが、ユキちゃんのお父さんにいつか会わせてあげることができたら───……ぼくのお嫁さんになってくれる?』
『うんっ!』
笑いたきゃ笑え。
こんなちっぽけな約束に振り回されてんだよ、僕は今も。