踏み込んだなら、最後。
「なんだよお前。もしかしてデート帰り?どこ行ってきたの?」
「水族館」
「はあ?おまえが?ありえねー」
「あたしたちとも今度一緒に行こうよ~」
「いーけど。あ、昼飯奢ってくれんなら」
せんごく、くん。
私の声が出ていても出ていなかったとしても、彼には聞こえるはずもない。
千石くん、あなたはいったい誰なの……?
「って、彼女ちゃんビビってない?大丈夫ー?」
「え、ほんとに真澄の彼女なの?あたしとどっちが良かったー?」
どれが本当の顔なの、というより。
この人にはたくさんの顔があるんだろうと思った。
何個も何個もあって、そのときそのときで選んで、私に対しては丁寧な好青年に決めたんだ。
「汐華さん、こいつらはうるさいけど悪い奴らじゃないので大丈夫です」
「きゃははっ!にっあわなー!気持ち悪いってその敬語!」
「無駄無駄。それが真澄の騙しの作法だから。なあ、真澄」
「騙すってよりは礼儀だよ。それに、俺を信じきるほうも悪いだろ」