踏み込んだなら、最後。
「待ってください汐華さん…!俺、なにかしました…?」
なにかしました…?って……。
その質問も変だし、まったくもってして意味がわからない。
千石くんの敬語、好きだったんだけどな…。
今は耳にするたびに嫌味のようなものに聞こえて仕方がない。
「汐華さん…!」
コンクリートの欠片がパラパラと落ちては散らばっている階段で、腕ではなく肩を掴まれた。
たったそれだけで「嫌だ」と感じてしまった私はもう、今までどおりに千石くんのことを見れそうにない。
「……敬語…、もうやめて…いいよ」
「…………わかった」
なにを思ったのか少し溜めて、結局は受け入れてくれる。
そんなことしたら、今までずっと取り繕ってたことになっちゃうよ。
「俺にとってはあれが当たり前なんだ。…引いた?」
「……………」
うん、引いた。ドン引きだ。
当たり前だからなんだって話だ。
当たり前だから私に理解してくれと、彼はそう言いたいのか。
どちらかが合わせなければ付き合いなんかうまくいくはずがない。
それは私にだって分かってる。