踏み込んだなら、最後。
烏之雌雄
士郎side




「この男を知らない?」



僕は今日も、ひとりの男を探すために游黒街を歩く。


とある女の子の宝物でもある写真をコピーして焼き増しした1枚が手元にある情報だった。

この街のどこかに必ずいる───それだけが頼りない証言。


だいぶスーツ姿にも慣れてきた。


それは同居人の女から「ナメられないように」と命令されていたことで、この街を歩く際の一張羅のようなもの。



「名前はワカツキっていうらしいんだけど」


「まーたパッとしねェ顔だなァ」



パッとしないって、それは遠回しに僕の好きな子を馬鹿にしているのか。


この写真は写りがそんなに良くないだけで、実際はハンサムだったんじゃないかとも思う。

けれど娘は確かに素朴な顔立ちだし、10人の女の子がいたら簡単に埋もれてしまうだろう。


僕は好きだよ、パッとしない顔も。


知らないだろうけど、たまに綺麗な表情を見せるんだ。



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