踏み込んだなら、最後。




「たぶんユキねーちゃんも帰ってると思います…けど」


「ああ、いや。俺はこのあと用事があるので」



なんで来てんだろ、俺。

俺の家、ここから正反対の場所にあるってのに。



「あの……水族館のお土産、ありがとうございました。千石さんも一緒に選んで買ってくれたって、ユキねーちゃんから聞いて」


「…いや、俺もいつもお世話になってるので」


「お菓子、すごく美味しかったです。あっ、キーホルダーも……弟たち大喜びでした」



笑顔、なんでこんなまぶしーかな。

君たちみんな親に捨てられた可哀想な子だってのに、なんでそんなふうに笑えるんだよ。



「俺がここに来たこと、みんなには黙っててもらえますか。…とくに汐華さんには」


「……わかりました」


「…ありがとう、海未ちゃん」



ここ、いいな……。

寂しさはあっても、さみしさはないんだろうな。


左肘を右手で触ってしまう、昔からの癖。


これは俺が、さみしいと感じているときの癖だ───。








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