踏み込んだなら、最後。




「今朝にも他の女とヤッたばっかだけど俺」



キスはせず、最低すぎる言葉を聞いてから私は立ち上がった。

「怒った?」と追いかけてくる声を無視して、園内の水道場でハンカチを濡らして戻った。



「本当は消毒じゃないと意味ないかもしれないけど…」


「……………」



トントンと、傷口にそっと当ててあげる。

たまに滲みるのか、逃げようとする千石くんをいちいち気にしてたらキリがない。



「ひまわり園に行こう。やっぱりちゃんと手当てしないと」


「…こんなの見たらみんな泣くって」



そこは気遣える心があること。


水族館に行った日もそうだった。

お土産、子供たちのこと考えて選んでくれたよね。


そのあと最悪なものばかりを見ちゃったけど、あのお土産は子供たちに隠さず渡したよ。


それを渡さない選択だけは、私にはできなかった。



「みんな千石くんに会いたいって言ってる。お土産のお礼、言いたいんだって」



すると、ぐいっと引かれた手。

私の背中に腕が回って、ぎゅっと抱きしめてきた。



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