踏み込んだなら、最後。
「ひとり?誰かと待ち合わせ?」
「おねーさん。そっちは危ないぜ」
「ねえねえちょっと道聞いていいかな?教えて欲しい場所があんだけど」
この街の歩き方は、相手にしないことだと知った。
足を止めないこと、上を見ないこと、あまり首を動かさないこと。
チッと舌打ちされたとしても、大して傷つかないこと。
「………、」
あの日を逆再生するかのように、目印である緑色の看板を目指す。
細すぎる裏路地の先にある、閉ざされた門。
さすがにゴクリと唾を飲み込んでしまったけれど、私は躊躇わず入った。
「ゆー、こく……がい…」
日の通さない街は真夏の夜も肌寒い。
今にも切れそうな蛍光灯、錆びれた路地裏。
なにが書いてあるか読めもしない看板に、ピチャンピチャンと響く水音。
あの日と違うのは、完全に夜だということ。
私が知らない顔ばかりが見えてくるだろう闇が広がっている。
そんな踏み込んではいけない領域に、私は自分の意思で入ったんだ。