踏み込んだなら、最後。




完全に私が断れないフィールドを作ってしまったのはシロちゃんなのに。



「このまま“かぞく”に襲われるか、“他人”になって何事もなく帰るか。…好きなほう選んでよ」



すきな、ほう。

そんなにも意地悪な聞き方をしてくるなら、私だって言いたいよ。



「……断って…、いいの……?」



そうしたら私は、近いうち違う男の子と経験してしまうかもしれない。


一応は付き合っていて、一応は彼氏。


女の子の扱いにも実際は慣れている人だから、もし私の心が深く傷ついてしまったときは流れるままに奪われちゃうかもしれない。


シロちゃん。

私ってね、あなたが思っているよりもしっかり掴んでいないと溶けちゃうんだよ。



「断るなって思ってるけど」



それがもし、嘘だとしたら。

私を一瞬でも喜ばせるための気休めのような嘘だとしたなら。


首のうしろを触るはずなんだ、シロちゃんは。


どんなに待っても今日は触らないんだね。

だから私はふるえる手を目の前の肩に置いて、唇を自分から重ねに向かった。



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