踏み込んだなら、最後。
士郎side




「だれか来たの?」


「…どうして?」


「なんとなくよ」



同居人はさっそく気づいた。

ここに僕が女を連れ込んで、朝まで一緒にいたこと。


神様はやさしい。

この人が昨夜から今夜にかけて帰らないことを知っていて、あの子を僕に会わせたんだ。



「それにシロウも、昨日までとは違う顔をしているわ」


「……気のせいですよ」


「まあ、なんでもいいけれど」



1回なんかじゃ足りなかった。

何度も何度も抱きしめて、何度も何度も名前を呼んで、飢えた獣みたいに何度も何度も。


爪を立てられた傷さえ愛しくなって、一生消えなければいいと今も僕は願っている。



『カップラーメンで悪いけど』


『…ううん。施設ではあまり食べられないから、うれしい』



目覚めた朝は、一緒にカップラーメン。

初めて肌を重ねて、お互いに初めてを経験して迎えた朝にしては色気のなさすぎる朝食だった。



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