踏み込んだなら、最後。
でもそれが僕たちらしいって、きみは笑ったんだ。
そのあと「やっと一緒にご飯を食べられた」と泣いたきみを、僕は最高な口実だと感謝しながら、また腕のなかで慰めた。
『シロちゃん、しろちゃん』
『士郎』
『っ…、士郎……っ』
肌の感触、溶け交じりそうな柔らかさ、かすれた声、荒い息づかい。
世の中にはこんなものがあるのかと感動さえ覚えるほどの、耐えがたい快感。
熱、ねつ、熱。
冬みたいだったときみは言って、消えて欲しくないと泣いていた。
いまだに余韻が残るなか、僕は思い出にすがるように、あたまのなかで何度も由季葉を抱く。
「そろそろ出ていってくれるかしら」
と、現実に引き戻された。
今まで散々僕のことを何者かに重ねて可愛がっていた寂しい女が、急にそんなことを言ってくる。
「…僕が男になったから嫌気でもさした?」
「ばか言わないで。あなたをそういう目で見ることは、猿に対して欲情するのと同じことよ」
かなり失礼な言い回しをしてくるんだな。
猿って、比喩表現としては間違ってないかもしれないけど。