踏み込んだなら、最後。
「あたしはここでしか生きられないの。この街で生まれて、この街で育った」
「……子供は、それ知ってんの」
「知るわけないじゃない。一切と知らさないためにも、あたしは捨てたのよ」
僕と同い歳。
かなり化けの皮を被った奴だから、よく似てるよ。
親子の縁ってすごい。
その鷲鼻も、間違いなくあなたの遺伝だ。
癖とか特徴とか、遺伝子は引き継がれるものってよく聞くけど。
そんな奴と僕の好きな子がね、まさか付き合ってるんだって。
こんなことってある?
神様はやっぱり意地悪すぎるんだよ。
「あたしが求めていい幸せなんか、この街で手にできるものだけだった」
「……旦那は」
「…普通のひとよ」
この街で生まれてこの街で生きた子だという理由だけで、男たちが道を開けるわけがない。
この人だけは何かしらの権力で守られている理由にはならない。