踏み込んだなら、最後。
「あたしの親は、この游黒街を作ったと言われている権力者」
まるで僕の疑問が口に出ていたかのように答えてくれる。
普通の男と恋に落ち、ここを抜け出すつもりだったんだろう。
当時16歳の彼女は。
でも結局は戻されたから、許されなかったから、今もこの街にいる。
「どんなに寂しい思いをさせていたって、どんなに大変な思いをさせていたって。あの人が、あの子が、向こうの世界で普通に生きているのなら……あたしはそれでいいの」
「……おいでよ」
「…あたしの幸せは…、そこにあるわ」
「だからおいでって」
僕はそっと、静かに涙を流す女を抱きしめた。
あなたが僕に息子を重ねていたように、僕だって少しだけあなたに母親を重ねていた。
顔も知らない、名前も知らない母親を。
僕の両親も、物心つく前の僕を施設に捨てた理由がそんなものだったらいいと思ったんだ。
「シロウ…、ワカツキのこと、ぜんぶ話すわ」
そして僕は、彼女の口から驚愕の真実を聞くことになる。