踏み込んだなら、最後。
「あ、彼氏でもできたとか?」
「……なに、言ってるの」
「だって女の子の顔してるからさ」
なにがしたいのか、わからない。
ぐっと近寄ってきて、見方によっては抱きしめられているようにも感じる。
けれど本人は「体重を預けて寄りかかってる」とでも言い張りそうだ。
そこまでするなら抱きしめるほうが早い気もするよ…。
「ゆるさないよ、そんなの」
「…え…」
「シャワー浴びてくる」
そして颯爽にバスルームへと向かっていった。
ここは「ひまわり園」という名の、ちょっとだけ寂しい場所。
親と一緒に暮らせない子供たちが集まって、ひとつの“かぞく”になる場所だ。
「……タバコと、香水の……匂い…?」
どうしてさっきは気づかなかったんだろう。
ある日。
ずっと一緒に育ってきた大好きで大切な“かぞく”が、そんな知らない匂いをまとって帰ってきました。