踏み込んだなら、最後。




「あ、彼氏でもできたとか?」


「……なに、言ってるの」


「だって女の子の顔してるからさ」



なにがしたいのか、わからない。


ぐっと近寄ってきて、見方によっては抱きしめられているようにも感じる。

けれど本人は「体重を預けて寄りかかってる」とでも言い張りそうだ。


そこまでするなら抱きしめるほうが早い気もするよ…。



「ゆるさないよ、そんなの」


「…え…」


「シャワー浴びてくる」



そして颯爽にバスルームへと向かっていった。


ここは「ひまわり園」という名の、ちょっとだけ寂しい場所。

親と一緒に暮らせない子供たちが集まって、ひとつの“かぞく”になる場所だ。



「……タバコと、香水の……匂い…?」



どうしてさっきは気づかなかったんだろう。


ある日。

ずっと一緒に育ってきた大好きで大切な“かぞく”が、そんな知らない匂いをまとって帰ってきました。



< 20 / 280 >

この作品をシェア

pagetop