踏み込んだなら、最後。
羞月閉花
士郎side




「シロウ…、ワカツキのこと、ぜんぶ話すわ」



やっとこの日が来た。

彼女からのそんな言葉のためだけに、僕は何度も死にかけた。


これでやっと、やっと戻ることができる。
あの子のもとに帰れるんだ。

ごめんと何度も謝って、大好きだと気持ちを素直に伝えたい。


────けれど。


この街がそんな甘いものではないこと。

このときの僕は、なんにも知らなかった。



「………、」


「なに、ここで止めるのはナシだよ」


「……ええ、わかっているわ」



なにをそんなに言葉に詰まってるんだ。
迷っているんだ。

泣いていた女から身体を離して、僕はただただ彼女からの言葉を待った。


たとえば凶悪な犯罪者で、いまも逃げ回っている男だったとしたならば。


確かに言いづらいかもしれないし、僕も聞いたところで娘であるユキちゃんに会わせようか悩む。

でも元気にやっているよって、あなたの娘は元気だよって、伝えることくらいはしてあげたいと思う。



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