踏み込んだなら、最後。
「名前だけはあたしが付けたの。真っ直ぐ澄み渡った空を飛んで欲しいって、意味を込めてね」
いまの顔が、彼女の本当の顔なんだろう。
幸せ者だ、あいつは。
こんなにも母親に思われて、愛されて。
あいつは誰よりも幸せ者だよ。
「でも、それでもなのよ。たとえあたしが游黒街に戻ったところで、向こうの世界に家族を逃がしたところで……、それでも追ってくるの、この街は」
踏み込んだなら、最後。
知ってしまったなら、最後。
なにかしらの方法で、どんな手を使ってまで、追い込んでくる。
そう言われて僕はゾクッと、今ごろ恐怖が全身を襲ってきた。
「ねえ…、それって、あなただから、だよね……?」
「……………」
「あなたの立場が特殊だから、関わった人間にまで影響が出るだけだろ…?」
たまたまこの街に踏み込んでしまって、たまたま見てしまって。
そのパターンの人間は除外される、なんて。
────都合が良すぎるよな。