踏み込んだなら、最後。
隔靴掻痒
「由季葉~、このあとどっか寄っていこうと思ってるんだけど、由季葉どうー?」
「あ…、えっと、今日はちょっと家の用事があって…」
「そっかそっか!じゃあまた今度だね!」
「うん。また明日ね」
私が施設育ちなこと。
クラスメイトたちもほんわりと知っていて、とくに仲の良い友達には詳しく話してある。
4歳からこの町の児童養護施設に預けられている───と。
今も私から出た「家」という言葉になにかを感じ取ってくれたお友達たちは、深入りせずに優しく手を振ってくれた。
「佳祐お兄ちゃん!もう来てる…!?」
「おー、おかえり。ちゃんと手ぇ洗えよー」
「あっ、うん」
質問に対する答えは返ってこなかったが、施設の玄関を開けて靴を見るだけじゃなく。
室内から聞こえてくる子供たちのはしゃぎ声。
それに若い職員である佳祐お兄ちゃんの表情を見れば、彼女が来ていることが分かった。