踏み込んだなら、最後。




僕はただ悔しかったんだよ。


そこに僕だけが入っていないことが、悔しかった。


いやだな。

言われてから、そういえば雰囲気似てるかもって思い始めるんだからさ。



「…わかっているわ、あたしは最低よ。……保身のために兄さんを頼って、兄さんの娘を苦しめた」


「どう償うんだよ」


「……必ず由季葉ちゃんに手出しはさせない。あたしの命を懸けてまで、あなたたち全員を守るわ」


「そんなことしたって…っ、由季葉のお父さんは戻ってこないだろ……!!」



お嫁さんになってくれるって約束したんだ。

僕がいつか見つけ出して会わせてあげられたら、僕のお嫁さんになってくれるって。


それが僕の生きる意味だった。

母親も父親も分からない僕の、存在理由だった。



「……死因は…」


「…癌(がん)だった。本人も病院は行かないと言って、最期までこの街の特別階で静かに過ごしていたわ」



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