踏み込んだなら、最後。
千石side




「お世話に…なりました。いろいろ、本当にありがとうございました」



俺を救ってくれたひまわり園の前。

見送りに並んでくれた顔ぶれたちへと、俺は来たときよりも深く深く頭を下げる。


父さんが無事に退院して、俺は家に戻ることになった。


バイトも単発バイトのほうはやめて、明日からはガソリンスタンド1本で時間と日数を減らしてもらい、今までどおり学校にも通う予定だ。



「なんで行っちゃうの?よーしえんぐみ?」


「…ちがうよ。千石くんの本当のお家は、ひまわり園じゃないの」


「そーなの?また来てくれる?」


「ええ。いつでも遊びに来てくれるわ」



保母さんたちは決して、「親のところに帰る」とは言わない。

保育園児たちだけじゃなく、この施設の子供たち全員を気遣った最大限の優しさなのだろう。



「真澄も無理しすぎんなよ。なんかあったらまたいつでも来ていいからな」


「…ありがとう、佳祐さん」



一緒に生活して家族になってしまえば、名前で呼び合うことは当たり前。

いつも佳祐さんは男同士ということで、本当の兄のように接してくれた。



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