踏み込んだなら、最後。




「握手、しようか」


「…握手…ですか」


「…そう。ああ、嫌だったらぜんぜん」



俺のそんな提案に驚いてから「嫌じゃないです」と言って、右手を差し出してくれる。


この子はいつも長袖を着ている。

手を洗うときさえ、なるべく袖は捲らない。



「…いやっ、やっぱり…やめます」


「大丈夫、…ね」



触れるギリギリで引っ込めようとした海未ちゃんに、俺から掴まえにいく。


その腕に深く刻み込まれた消えない火傷やアザがあることを、俺は少し前にたまたま見てしまった。

彼女がひまわり園という施設に預けられた理由は、そこにあるのだろう。



「だいぶ冷えてんね、手」


「あ…、すみません…、末端冷え性だったりもして…」


「んー、かもだけど。心、すげーあったかいの知ってた?海未ちゃん」



ついさっきはあんなにも俺を追いかけてくれたくせ、俺から向かおうとすれば怖くなったのか逃げようとする。



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