踏み込んだなら、最後。




でも残念。

踏み込んじゃったなら、最後なんだよ。



「また遊びにいく。メールもするから」


「……はい」



交換だけはしていた連絡先。

これからは使う頻度が多くなりそうだ。


ずっと寂しかった心の空洞に、ちがう形で別のものが埋め込まれた感覚。

とても温かいから、それで十分かもしれないなって思うもの。



「千石さんっ!」



再び歩き出せば、また止めてくる。

海未ちゃんにしてはボリュームある声に、俺は足だけを止めた。



「初めて千石さんを見たとき、すごい丁寧で誠実な人だとは思いました。でも私はずっと…、このひと無理してるなって思って」


「…………」


「だから、ぜったい今の千石さんのほうがいいです」



俺ってわりと、嘘つけないのかな。

自分では上手だと思ってたんだけど。


振り返って、今世紀最大に下手くそな笑顔を向けてやった。



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