踏み込んだなら、最後。
この入院生活でかなり体力は回復したようだが、会社ではこれからは力仕事ではなく内勤に異動するとのこと。
今日は俺が0に入り浸っているときは滅多になかった、久しぶりの親子の時間だった。
「父さんな、お前にひとつ……謝らなきゃいけないことがあるんだ」
俺が珍しく父親を心配するようなことを言ったからか。
今なら話せると、今しかないと、そんな空気感で父さんは箸を置いた。
「お前の……母親のことだ」
もういいよ、べつに。
昔は何度も何度も聞いてたけど、どうせ答えられることなんか分かってるし。
俺たちを捨てて自分の人生を選んだ最低な女のことなんか。
「父さんはずっと、お前に嘘を言っていた」
「……うそ…?」
もういいと思っていたはずなのに、反応してしまう。
それは俺のなかに、まだ俺のなかに、ほんのわずかでも母親に対する期待が消えていないからだろうか。