踏み込んだなら、最後。
「ふわふわしてて、目を離した隙に空に飛んでいっちゃうんじゃないかって本気で心配にもなったけど」
あははっと響かせてから、彼女にしか出せない顔で微笑んだ。
「ユキちゃんユキちゃんって、そればっかりだったなあ」
「…そうなの?」
「覚えてるかなー。由季葉が1度、すごい高熱出して寝込んだことがあってね」
「……覚えてない…かも」
「そうよねそうよねー」
それは私が6歳のときだったらしい。
絃お姉ちゃんは当時13歳。
ちょうどおやつタイムな子供たちの飲み物を用意し終わった佳祐お兄ちゃんも混ざって「あー、あれか」と、彼も覚えているほどの出来事みたいで。
「そのとき同じくらいシロも落ち込んじゃってさ。ユキちゃんが死んじゃうって大泣きよ。最終的にあいつ、雨のなか外に飛び出したりして」
「えっ、どうして…?」
「自分も風邪引くんだって、そうすれば由季葉の熱が治ると思ったらしくって。今でもまったく分からない謎理論。ねえ佳祐」
「ああ。俺と絃で力ずくでも止めたもんな」