踏み込んだなら、最後。




「いや、聞いたことないな」


「そう…だよね」



この街にある大きな歓楽街はふたつ。


観羅伎町(かんらぎちょう)と、遊楽町(ゆうらくちょう)。


どちらもここから電車で行ける距離にある繁華街だ。

そして安易に近づいてはいけないと言われている場所は、観羅伎町のほう。



「観羅伎町ではないんだよな?」


「…うん。ゆうこくがい、ってところ」


「それは俺も分からない」



眠らない街。

私たちにとっての“夜”が、観羅伎町にとっての“朝”だ。


もちろん実際には私も行ったことがないから名前だけ知っている程度なのだけれど、とくに絃お姉ちゃんは注意深く警告してくる。



「遊楽町でもないみたいだし…、どこにあるんだろう、游黒街って」


「…絃なら知ってるかもな」



つぶやいた佳祐お兄ちゃんに連れられて、私は部屋に戻った。

たぶんだけど、佳祐お兄ちゃんが言っていた言葉は少しだけ間違っている。



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