踏み込んだなら、最後。
正しくは、“絃お姉ちゃんの旦那さんなら知っているかもしれない”───だ。
絃お姉ちゃんの旦那さんはいつも漆黒のスーツを着ていて、私たちとは違う目を持っているひと。
『どうしてその名前を知ってるの?』
「えっと、たまたま…聞いたんだ…」
『だれに?』
「……学校の…、クラスメイト…」
もちろん絃お姉ちゃんの旦那さんに直接聞くことはできなかったから、まずは絃お姉ちゃんに電話をかけてみる。
すると真剣な彼女の声は、戸惑う私を容赦なく壁際まで問い詰めてくるようなものだった。
『ないよ、そんな街』
「で、でも……あるって…」
『ないの。…なくていーの、あんな街は』
なくていい、って…。
つまりそれは“ある”って言っているようなものだ。
知ってるんだ。
絃お姉ちゃんは游黒街のことを。