踏み込んだなら、最後。




耳だけに留まらなかった眉や舌のピアス。


紫色の唇は私生活だけでなく、その人相すら表してくれる。

呂律が回っていない口調はお酒ではない、もっと危ないものに手を出している証拠だということ。


それすらろくに知らない私が来てはいけなかった場所。


ここにきてとんでもないことになっていると、やっとだった。



「わ、私っ、もう帰らなくちゃで…、いたい…っ、離して…っ!」


「うっせーなァ。こっちも久しぶりで溜まってんだよ。ヤるからにはキモチーほうがいいじゃん」



絃お姉ちゃんの言い付けを破ってまで、なにをしているの私。

もう逃げられない。
捕まってしまった。


ヘラリヘラリと男が笑うたびに息が詰まりそう、泣きたいのに泣けない。



「わたしっ、私…っ、游黒街に行きたいんです……!」


「……………」



そして足取りはピタリと止まった。

私の言葉を聞いて、止まった。


まさか私みたいな子供がその名前を知っているとは。


男はそんなことを言ってきそうな顔で、私を射抜いてくる。



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