踏み込んだなら、最後。
「ここが游黒街」
封鎖されているひとつの門があった。
なにかの工事中なのかと思っていた私は、とんだ勘違いだったと知る。
地面に転がっている使用済みの注射器やライター。
普段から日など当たらないのか、湿気だらけの壁に張り付いた苔(こけ)のようなもの。
切れた電線、そこからピチャンピチャンと水滴が落ちている。
今にも消えそうな蛍光灯は、あんな灯りが100%で点いていたところでなんの役にも立たないだろう。
奥の奥まで続いている路地裏は、見える限りでもまっくら。
「土地感狂うよなァ。表向きはきらびやかな繁華街、その奥にはこーんなヤベェ街がもう1コあんだからよ」
狂うとかじゃない。
おかしい、この街はおかしい。
まるでそれは、地上に存在する巨大な蟻の巣。
しばらくしてからハッとする。
どおりで同じ住所だったわけだ。
どおりでみんな知らなかったわけだ。
ここまで来なければ目にすることができないのだから、当たり前だ。
遊楽町のなかに游黒街があることを。