踏み込んだなら、最後。
「ここをまっすぐ行って、緑色の看板を目印に右。そしたら大通りにつづく標識が見えてくるから」
けれど暗闇に光が射しかかった場所で、トンっと背中が押される。
「い、いっしょに…」
────帰ろうよ。
そのためにここに来たの。
深く詮索されることが嫌なら、どうしてこんな街にいるのかなんて聞かないから。
佳祐お兄ちゃんにも絃お姉ちゃんにも秘密にするし、今日のことは見なかったことにする。
「───シロウ?こんなところにいたの」
知らない声。
のはずが、声だけで「この人だ」と分かってしまった。
シロちゃんに付いてしまった匂いの元凶だ。
「急に消えないで。探す身にもなってくれるかしら。…知り合い?」
「…いいえ、まったく知らないひと。ちょっと道案内してました」
色気を存分に引き立たせるタイトな赤いワンピースに、彼女にしか似合わないと思わせてくる黒いショートヘアー。
こんなにも暗い場所で必要かと思ってしまうサングラスと、よく歩けるなと関心もしてしまうヒールの高いパンプス。