踏み込んだなら、最後。




ふさぎたかったのは耳。
事実ふさがれたのは唇。

すくいあげるみたく甘美に重ねてくる。



「やだ…、シロちゃんが知らない人になっちゃうみたいで……やなの、」



他のひとの話なんかしないで。

他の女の話なんか、いやだよ。


呼んで、なまえを呼んで、おねがい。



「…なんだそれ。僕たちは家族ごっこをしてただけの……ただの他人だってのに」



すき、好き、すき。

かぞくとか、そうじゃないとか、ぐちゃぐちゃになるくらい。


あなた(きみ)には、わたし(ぼく)が必要だ。




「狂いたかったら僕のとこに来な。───…“ユキちゃん”」




また、来て。

僕も会いたい。
きみがいないと息が吸えない。


そう聞こえちゃうよ、どうしたって。



「首、巻きついて。…痛いのはヤだろ」



ほら、ね。

彼の捨てきれはしない優しさに、また涙があふれた───。



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