踏み込んだなら、最後。
「あの、さっき失恋したって言ってましたけど…」
施設にいちばん近い最寄り駅に一緒に降りて、またそこからも隣を歩いてくれる千石くん。
静かだった道で、ふと聞いてきた。
「汐華さんが好きになったひとって…、どんな人ですか…?」
どんな、ひと。
改めて聞かれると、今まで考えたことがなかったと気づく。
そんなの考えないくらい隣にいて当たり前な存在だったんだ彼は。
「…汐華さん?」
「……難しいな、」
「え、あ、ごめんなさい!無理やり聞き出すみたいにして…!」
「…ううん。ごめんね、どんな人って言われると……本当に難しくて」
掴みどころがない男の子だった。
ずっとずっと一緒だったのに、知らないことのほうが多いと思わせてくる男の子。
「でも……好きだったんですね」
「…うん」