踏み込んだなら、最後。
ひまわり園。
そこまで数多く存在するわけじゃない児童養護施設は、このあたりではここだけ。
住宅地から少し外れた場所に位置する、一見すると保育園にも見える2階建て。
「……………」
門にある看板を見ながら無言だったから、変な気をつかわせてしまったと後悔した。
嫌なら嫌でいいし、なにか怖くなったならそれでもいい。
そんなことには私たちは慣れている。
「今日はありがとう…千石くん。すごく楽しかった」
「待って…!」
すばやくペコリと頭を下げて、去ろうとした私の腕。
パシッと掴んできた千石くん。
「あっ、待って、ください」
つい敬語が外れてしまったことに焦っている仕草が、彼の人柄だと思わせてきた。
「汐華さん、次から……一緒に帰りませんか」
「……えっと、」
「ああ、いや、その………俺、たぶん汐華さんと仲良くなりたいんです」
「…わたし…、施設育ちで、」
「関係ないです。…だから子供にも優しかったんだなって、俺すごい……良いと思いました」